瓦屋根の地震への影響と葺き替え後の耐震化改善について

大きな地震が発生する度に、瓦屋根の耐震性について議論が飛び交います。
地震により重い屋根で押しつぶれた家屋を見ると、自宅の耐震性に問題がないか不安を感じる人も多いはずです。
この記事では、「瓦屋根」「地震」「耐震性改善」をキーワードに、瓦屋根の問題点を屋根工事会社の視点で解説します。

アイコン ご注意!!

この記事は、日常的に屋根葺き替え工事をおこなっている当社の経験に基づいた見解を含めたものです。公式にされている指標や第三者機関の客観的な見識も参考にしておりますが、当社は日常的に耐震性能を求める構造計算に従事している会社ではございません。そのため、ひとつの参考意見としてご覧いただければ幸いです。この記事をきっかけにより良い社会が築かれることを願っています。

耐震基準の変容

耐震基準の変容

戸建て住宅の耐震基準は、大きく3つに分かれます。
「旧耐震基準」「新耐震基準」「2000年基準」の3つです。
建築された時期によって、建物の耐震性を求める設計基準が違います。

戸建て住宅の耐震基準

年代 名称 耐震設計
1980年以前 旧耐震基準 震度5程度の地震で倒壊しない耐震基準
1981年~ 新耐震基準 震度6強程度の地震で倒壊しない耐震基準
2000年~ 2000年基準 震度7(阪神大震災)の地震被害をきっかけにした耐震基準

1995年に発生した阪神淡路大震災では、多くの建築物が倒壊しました。
その被害調査の結果を踏まえ、2000年に建築基準法が改正されました。
今では当たり前のように行っている地盤調査をしたり、柱と梁に金物取付をしたりするようになったのも、この時期からです。
言い換えれば、2000年より昔の建物(の多く)は、地盤調査を行わずに建物を建てていたということになります。

建築基準法は時代とともに改正されています。
2025年には、4号特例とよばれる木造建築物の構造計算や壁量計算などの減免処置が一部廃止されます。
これまでのように構造計算を行わずに建物を建てていた場合、“STOP”が入ります。
このように建物の構造や耐震に関する基準は、今後ますます厳しくなっていくことでしょう。

柱脚を金物で固定
柱脚を金物で固定

昔と現代で異なる瓦屋根の構造と問題点

「昔の瓦屋根は地震が来た時に瓦が崩れ落ちるように設計し、現在の瓦屋根は台風が来た時に瓦が飛ばされないように設計している」
これは日常的に屋根工事に従事している筆者の見解です。
瓦屋根の施工方法は、利益と不利益が介在しているように日々、感じています。

昔の瓦屋根は地震で瓦が散乱する設計

屋根の重さが重いほど、建物の揺れが激しくなることは、よく知られています。
そして、昔の瓦屋根は、地震が発生すると屋根が一気に散乱して崩れる構造となっています。
「瓦解」という言葉もこのことが語源になっています。
昔の瓦屋根は、釘などで留めず、瓦を積み重ねているだけだからです。
実際に古い家屋の建物は地震や台風などで簡単にずれたり、はがれたりします。
おそらくその理由は、地震による建物の倒壊を防ぐためと筆者は推測しています。
もし地震による揺れの対策として伝統的な葺き方が採用されていたのであれば、地震の多いわが国の先人たちの知恵によるものです。

地震でふるい落とされた瓦屋根

現代の瓦屋根は台風がきても瓦が散乱しない設計

崩れやすい瓦屋根は、瓦の固定が甘く、強風で瓦が崩れやすい問題があります。
2019年の令和元年房総半島台風を契機に、瓦の固定化を求める意見が増え、瓦の固定化が義務付けられました。
ガイドライン工法とよばれる瓦の固定方法です。
このガイドライン工法は、2022年1月、建築基準法にて義務化されました。
瓦の施工方法に関する建築基準法の改正は、じつに50年ぶりの改正(前回は1971年)です。
現在の瓦屋根は、瓦を釘で固定する設計となっており、地震で瓦が崩れ落ちることはありません

シリコンで固定された瓦(ラバーロックされた瓦)
シリコンで固定された瓦(ラバーロックされた瓦)

地震で倒壊した家屋

わたしたちは、地震で倒壊した家屋の画像や映像を見かけることが多いです。
その倒壊した家屋は、瓦が散乱している家屋、そして瓦が屋根に残ったまま倒壊している家屋の2パターンがあります。
2024年1月1日で発生した能登地震で倒壊した建物でも、瓦が屋根に残ったまま倒壊している建物が多くあります。
家屋が倒壊する理由は、地震の揺れ方によって変わるため、一概に屋根の重さが原因であるとは限りません。
筆者は構造や地震の専門家ではないため、安易に評価を下す立場ではありませんが、昔ながらの方法で、瓦を固定化させずに瓦が振るい落されていたら、倒壊を免れた可能性もあるように思えてなりません。

屋根の軽量化は4大耐震改修工事のひとつ

屋根の重さと耐震性

「屋根の重さと耐震性には因果関係がない」や「屋根を軽くしても耐震性は大きく改善しない」といった意見を見聞きすることもありますが、屋根は軽ければ軽いほど耐震性に優れていることは、明らかにされている事実です。

【ABEMA TV】名古屋大学の建築耐震工学の教授による解説がとても分かりやすかったです
28:28

【ABEMA TV】名古屋大学の建築耐震工学の教授による解説がとても分かりやすかったです

構造計算と屋根の重さ

建築家を目指す人は、建物の構造耐力に関する「構造力学」とよばれる学問を必ず履修します。
その構造力学の計算式の中で「壁量計算」と呼ばれる計算式があります。
この計算式は地震に耐えることができる建物の壁量(地震耐力壁)を求める計算です。
壁量を求めるために、まずはじめに確認するのが「屋根の重さの係数」です。
屋根の重さの係数は、屋根材の種類によって変わります。
スレート屋根や金属屋根は「軽い屋根」、瓦屋根は「重い屋根」として基準値があり、それを基に構造計算をおこないます。

耐震改修とは?

耐震改修とは、地震に対する安全性の向上を目的とした改修工事のことです。
耐震改修は大きく4つあります。
「基礎を補強する」「柱に金具を取り付ける」「壁を増やす」そして「屋根を軽くする」の4つです。

4つのうち、屋根の葺き替えは最も費用がかかります。
1棟あたりの平均価格は諸経費を含めると約200万円です。

耐震改修 費用
基礎の補強 2~3万円/m
柱の金具補強 3千円/個
壁を増やす 12万円/箇所
屋根軽量化 1万円/㎡

この中で屋根の葺き替えについてはあまり積極的に語られることがありません。
その背景には、手間がかかることと多額の工事費用がかかるからだと筆者は思っています。
そのため、耐震改修を請け負う多くのリフォーム会社や設計事務所は、手軽な「柱の金具補強」と「壁を増やす」工事を推し進める傾向があります。

屋根の葺き替えと耐震性の改善

【~2024年までの】屋根材の重さの分類

今すぐ葺き替えたい土葺き屋根
今すぐ葺き替えたい土葺き屋根

陶器(粘土)瓦と金属屋根では屋根の重さは全く違います。
2024年現在の建築基準法において、各屋根材は「非常に重い屋根」と「重い屋根」「軽い屋根」の3つに分類されます。
この屋根の重さの分類は、構造計算をおこなうの基準値となります。

建築基準法改正前の屋根の重量区分(~2024年)

屋根材 重量 基準法での分類
土葺き屋根 約60kg/㎡ かなり重い屋根
瓦屋根 約42kg/㎡ かなり重い屋根
瓦屋根 約42kg/㎡ 重い屋根
スレート  約20kg/㎡ 軽い屋根
ルーガ 約20kg/㎡ 軽い屋根
アスファルトシングル 約12kg/㎡ 軽い屋根
金属屋根 約5kg/㎡ 軽い屋根

葺き替え後の屋根の重さはどうなるのか?

スレート屋根
スレート屋根は軽い屋根に属するが金属屋根に比べるとかなり重い

100㎡の屋根の重さを計算してみました。
葺き替え時は野地板を増し張りするため、屋根材の重さに加えて野地板の重さも加わります。

葺き替え前の屋根重さ(瓦屋根)

古い野地板 10kg/㎡
古いルーフィング 1kg/㎡
屋根瓦 42kg/㎡
瓦桟 1kg/㎡
合計 54kg/㎡
100㎡の屋根の重量 540kg

スレート屋根に葺き替え

古い野地板 10kg/㎡
古いルーフィング 1kg/㎡
スレート屋根 20kg/㎡
合計 32kg/㎡
100㎡の屋根の重量 320kg

金属屋根に葺き替え

古い野地板 10kg/㎡
古いルーフィング 1kg/㎡
金属屋根 5kg/㎡
合計 16kg/㎡
100㎡の屋根の重量 160kg

葺き替え後の屋根重量の変化(100㎡の屋根)

屋根材 屋根の重量 増減
瓦屋根(基準) 540kg ±0
スレート屋根 320kg -120kg
アスファルトシングル 240kg -300kg
金属屋根 160kg -380kg

軽い屋根材に分類されているスレート屋根に葺き替えても、屋根の重量は半分にも満たないです。
しかし、瓦屋根から金属屋根に変えると、屋根の重さは1/3以下になります。
そして、スレート屋根と金属屋根では、2倍もの重量の差があることに注目してほしいです。

屋根の葺き替え工事について詳しくはこちら

屋根の葺き替え

同じカテゴリーに分類されていたスレート屋根と金属屋根

軽くて丈夫なガルバリウム鋼板の屋根
軽くて丈夫なガルバリウム鋼板の屋根

「軽い屋根に変えても耐力壁1枚分程度の耐震性改善の効果が得られない」。
このように熱弁する人がいます。
こういった情報発信は瓦屋根を製造している会社や瓦葺き業者によるものが多いです。
専門家の中にも屋根葺き替えの効果について疑問を呈する人もいます。
たしかに、重い屋根から軽い屋根に変えることで計算上は、耐力壁1枚分の耐震効果改善しか得られない場合もあります。
しかし、建築基準法上の軽い屋根には、スレート屋根と金属屋根が同じカテゴリー属されています。
現行の法律では、屋根を葺き替えることで120キロ軽くなるスレート屋根と、380キロ軽くなる金属屋根の評価が同じ扱いになっています。

「軽い屋根材の文字」を「金属屋根の文字」に差し替えて、「金属屋根に葺き替えても効果はほぼ意味がない」といった、金属屋根に対してネガティブな印象を与える情報発信も見聞きすることがあります。
スレート屋根よりもはるかに軽い金属屋根を、スレート屋根と同じ基準値に当てはめることは、あまりにも不合理です。
そのような背景からなのか、2025年の建築基準法改正(案)では、スレート屋根と金属屋根が分けた構造計算されることになりました。
壁量計算の係数に見直しが入る予定です。

2025年に改正される建築基準法における屋根材の重さの分類(案)

改正予定の基準は、太陽光パネル取り付けが前提となる屋根の係数ですが、スレート屋根と金属屋根で異なる係数を求められるようになります。
屋根材が瓦屋根とスレート屋根、金属屋根の3つのどれかによって求められる壁量が変わることになります。
そして、外壁材もモルタル、窯業サイディング、金属サイディングの3つのどれかによって求められる壁量も変わることになりました。

現行の建築基準法に基づく地震力に対する壁量計算の係数

屋根の種類 1階 2階
重い屋根 33 21
軽い屋根 29 15

2025年の建築基準法改正(案)

屋根の種類 外壁の種類 1階 2階
瓦屋根 モルタル 51 30
瓦屋根 窯業 46 28
瓦屋根 金属 44 27
スレート屋根 モルタル 48 27
スレート屋根 窯業 43 24
スレート屋根 金属 41 24
金属屋根 モルタル 44 23
金属屋根 窯業 39 20
金属屋根 金属 37 20

2階建ての1階の係数

瓦屋根×窯業サイディング 46
スレート屋根×窯業サイディング 43
金属屋根×窯業サイディング 39

従来の重い屋根と軽い屋根の区分(瓦屋根と金属屋根の差)では、係数の差が「4」でした。
しかし、2025年の改正では、瓦屋根から金属屋根に変えることで「7」も減少することになります。
そして、金属屋根×金属サイディング耐震性能において最も優れていることが法律においても明確化されます。
金属屋根と金属サイディングの工事を専門にしているわたしたちにとって喜ばしい改正です。

アイコン 太陽光パネルはかなり重い

今回の建築基準法改正では、将来的な太陽光パネルの後付けを前提にした係数となっています。
太陽光パネル設置による屋根重量の変化をこれまでの建築基準法では想定をしていませんでした。
係数の上がり幅からも、建築基準法改正前に建築された建物に太陽光パネルを後付けすることが危険であることを案に示した法律の改正とも言い表せます。

災害時における屋根瓦のデメリット

被災地で瓦礫になった屋根瓦
被災地で瓦礫になった屋根瓦

大規模地震発生後の破損した瓦屋根の問題について指摘する人はほとんどいません。
大きな地震が発生した際、瓦の屋根は文字通り「瓦礫」となります。
しかし、屋根が金属である場合、金属屋根は「資産」になります。

瓦屋根の建物が倒壊した場合、道路へ散乱した瓦はインフラ復旧の際に障害となります。小さくて重いため撤去作業は途方もない時間を要します。

災害発生後の瓦屋根

インフラへの影響 飛散した瓦礫はインフラの復旧を妨害する 
屋根をはがす 固定されている場合、屋根をはがすのが極めて困難
瓦礫の処分 かなりの重労働を要する
瓦屋根の応急処置 2人で半日はかかる(ブルーシート貼り)

災害発生後の金属屋根

インフラへの影響 飛散した屋根は簡単に撤去や移設ができる
屋根をはがす バールやドライバーで簡単にはがせる
金属屋根の処分 容易に災害ゴミの集積場に持ち運ぶことができる
買い取り業者が引き取ってくれる場合もある
屋根の応急処置 1人で2時間程度 (ブルーシート貼り)

金属屋根は1枚5mや6mなどの長尺で軽いため、お年寄りでも簡単にはがして持ち運ぶことができます。
災害後の復興対策や救助の観点からも金属屋根はあらゆる点で優れています。
金属屋根は軽くて地震に強いだけではなく、災害後の処置の仕方においてもメリットがある屋根材です。

金属屋根の葺き替えと地震対策

地震対策として瓦屋根の葺き替えを
地震対策として瓦屋根の葺き替えを検討してください

2020年、千葉の房総沖で大きな台風が発生しました。
令和元年房総半島台風(台風15号)です。
千葉県南房総市の建物は、瓦屋根ばかりでした。
台風で真っ先に被害を受ける部位は屋根であり、この時も例外ではなく、数えきれない住宅の屋根瓦が飛ばされていました。

台風や地震の被災地に訪れて毎回思うのが、飛ばされた屋根(災害ゴミ)の処分の仕方です。
災害ゴミを無償で処分するには、自治体が定めた集積場に被災者が持ち運ぶ必要があります。
南房総市の被災地に筆者が訪れた際、80歳近いおばあさんが、飛ばされた瓦の屋根を集積場に持ち運んでいました。
両手に抱えられた瓦の数は、その数3枚でした。
高齢者にとって、わずか3枚の瓦を運ぶのが限界です。
3枚の瓦を捨てるために、自宅と集積場を何十往復もしなければなりません。
これが金属屋根だったら、どれほど労力が抑えられるかと強く感じた出来事です。

瓦は日本の伝統文化のひとつです。
しかし、デメリットも多く抱えている側面があります。
すでに金属屋根は日本で最も出荷量が多い屋根材となっています。
これからの日本の屋根は金属屋根の風景に根付くようになるはずです。
築年数が古い瓦屋根にお住まいの方は、これから起こり得る巨大地震対策の有益な手段として、重い瓦の屋根を軽い金属屋根に葺き替える準備も検討していただければ嬉しいです。

瓦屋根から金属屋根への葺き替え手順 -総集編-
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この記事を書いた人
著者 前川 祐介
前川 祐介 代表取締役社長
テイガク サイト制作責任者
宅地建物取引士
建築物石綿含有建材調査者
著者経歴

大阪府堺市生まれ。千葉県立船橋東高校→法政大学→サノフィ(旧アベンティスファーマ)株式会社を経て、父親が経営する板金工事会社である昭和ルーフリモ株式会社へ入社。
中央工学校夜間建築学科卒業。年間100棟以上の屋根と外壁工事に携わった経験を活かし、テイガク記事の執筆とユーチューブ動画撮影をおこなっています。趣味は日本史学。

運営会社

昭和ルーフリモ株式会社は2001年設立の板金工事会社です。
これまでの金属屋根と金属サイディング工事件数の合計は20,000棟を超えます。
板金工事は足場を組み立てるため、外壁塗装の工事事業にも注力しています。

国土交通大臣許可(般-25)第22950号
許可を受けた建設業:板金工事業/屋根工事業/塗装工事業 他

代表前川が本音で解説「板金工事会社とは?」

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