目 次
屋根のリフォームをおこなう際、各自治体が設けた助成金(補助金)制度を利用できることがあります。
金額は数万円のものから100万円単位で給付されることがあります。
積極的に活用することが望まれます。
しかし、助成金制度を利用した方が結果的に損をすることがあります。
また、助成金の給付は「手段であり目的ではない」ことも理解しておきましょう。
今回の記事ではリフォームの助成金制度について解説いたします。
各自治体の住宅リフォーム助成金サイト
各市区町村ごとのリフォーム助成金制度を検索できるウェブサイトがあります。
屋根のリフォームに限らず、バリアフリーや省エネ(断熱改修)などの助成金制度も網羅しています。
地方公共団体における住宅リフォームに係わる支援制度検索サイト(令和2年度版)
ただし、全ての助成金が網羅されていません。
たとえば、台風や地震などの自然災害時は、期間限定の(一時的な)助成金制度が予告なく突然、設けられることがあります。
したがって、各市区町村の建築指導課に問い合わせして、都度、確認をしましょう。

先着順の住宅リフォーム補助金制度
まず注目したいのが、工事内容に大きな制約がなく、リフォームをおこなうだけで給付してくれる助成金制度です。
ただし、このような助成金度を導入している自治体はかなり少ないです。
財政に余裕がある自治体でなければできないことだからです。
金額は3万円から5万円程度、そして先着順であることが多いです。
もちろん、条件や申請期間、支払い方法、対象工事内容などは自治体によって全く異なります。
下記に一部事例を紹介します。
例1 東京都町田市の住宅改修助成金
町田市住宅改修助成金 | 条件・申請期間・金額等 |
---|---|
目的 | 環境性能向上工事 |
工事内容 | 屋根の葺替え、屋根や外壁を遮熱塗装で塗り替える工事等 |
補助金 | 上限5万円 |
工事会社の指定 | 市内事業者以外の事業者でも認められるが助成率が下がる |
その他 | 2016年度限りで助成金を終了 |
工事会社の指定について
ちなみに各市町村が定めるリフォーム助成金制度は、工事会社に縛りがあることがほとんどです。
地元の市町村に本店(本社)があることが条件となっているはずです。
本店なので事業所(支店)があるだけではダメです。
助成金の給付が目的にならないように
助成金の給付が目的になると、地元の建設業者を前提にリフォームの計画をおこなうことになります。
建設業者は手持ちの工事がたくさんあって忙しい場合、建設業者は協力会社や下請け会社、身近な知り合いに工事を発注(外注)します。
言うまでもないことですが、このようなケースは中間マージンが発生する工事になるため、リフォーム金額は思っている以上に高くなります。
助成金を得ることを目的にしてしまうと、結果的に損をすることがあります。
例2 神奈川県海老名市の住宅改修助成金
海老名市リフォーム助成事業 | 条件・申請期間・金額等 |
---|---|
目的 | 地域経済の活性化及び市内業者の育成 |
工事内容 | リフォーム工事 |
補助金 | 上限8万円 |
工事会社の指定 | 海老名市内に本社・本店のある事業者 |
その他 | 申請期間9月26日(月)~10月7日(金) |
申請期間について
間口が広いリフォーム助成金制度は応募が殺到するので、申請期間が驚くほど短いです。
気が付いたら終わっていることや、一日で予算がオーバーになっていることがしばしばあります。
また、申請期間だけではなく工事期間(○月までに完工していること)を限定している市区町村も存在します。
ご注意ください。
某自治体のはなし
過去、「申請期間約10日」「受理から完工までに約2カ月」という厳しい条件(記憶があいまいですが、あまりに厳しい条件だったことははっきり覚えています)で、ウェブサイト上でリフォーム助成金の受付案内を掲載をした某自治体が存在しました。
2019年の台風後のリフォーム助成金制度だったので、おそらく突発的な掲載だっと思います。
驚いたのが、申請期間が終了した直後にウェブサイトのページを丸ごと削除し、全く閲覧ができない状態になっていたことです。
こまめに自治体のウェブサイトはチェックしておきましょう。
耐震改修助成金制度について
地震倒壊のおそれがある家屋は、助成金制度の対象となります。
全ての自治体で改修工事費の補助をおこなっています。
建物の要件
昭和56年6月1日(旧建築基準)以前の住宅が助成金制度の対象となります。
耐震性能が低い建築基準で建築された建物です。
耐震診断時に上部構造評点とよばれる点数計算をおこない、住宅の耐震性能を評価します。
上部構造評点は耐震診断士(設計士・建築士)により算定されます。
つまり、耐震改修工事は建築士が関わって都度、専門的な評価をおこなう手間と時間がかかるということです。
屋根の軽量化
主要な耐震改修は4つあります。
「基礎の補強」「接合部の補強」「壁の補強」そして「屋根の軽量化」です。
「屋根の軽量化」とは重い屋根から軽い屋根に葺き替えることです。
具体的には、日本瓦(陶器瓦)からガルバリウム鋼板屋根に葺き替えることです。
コロニアル(スレート・カラーベスト)や瓦棒(トタン屋根)は対象になりません。
実際に「屋根の軽量化」の耐震効果は最高ランクに位置づけられています。
その一方で工事費用は最も高額です。

「耐震の評価は壁量で決まるから、屋根の重さばかりを問題視すべきではない」といった意見があります。
これは住宅の壁量は屋根の重さによって決まる事実を突き放した議論のすり替えです。
阪神・淡路大震災の死者は 6400 名あまりであり、地震による直接死は約 5500 人いました。
そのうち 4400 人(5500 人の8割)が倒壊家屋による窒息死・圧死です。
そして、地震発生時から 15 分後まででのうち、3960 人(4400人の9割)が生埋めで亡くなっています。
屋根の重さを軽くすることが最もシンプルで分かりやすく、身の安全を確保するために効果がある改修です。
昭和56年6月1日以前の住宅は早期に屋根の軽量化を検討してください。
イラスト参照:木造住宅の耐震改修の費用

耐震改修工事に関わる費用の種類
耐震改修工事の費用は大きく4項目に分けられます。
「診断」「設計(補強計画)」・「監理」「改修工事」です。
このうち、「診断」「設計」「監理」の費用は業務報酬基準が策定(国土交通省)されています。
「改修工事」だけは受注する(実際に工事をおこなう)工事会社の見積り金額によって異なります。
※4つの項目は典型的な名称です。各自治体によって名称や名目が異なることがあります
「診断」の費用と相場
住宅の耐震性能を「診断」するための費用です。
診断士(設計士・建築士)は各市町村から紹介されることが多く、診断費用が無料の自治体もたくさんあります。
診断費用の相場 東京都 耐震ポータルサイトより |
---|
10万円~20万円/棟だが無料が多い |
耐震診断の費用は、建物規模等にもよりますが、木造住宅の場合、概ね10万円~20万円程度(図面ありの場合)と言われています。
これは、壁の仕上げ材をはがして隠れた部材を確認するようなことはせず、図面や目視で調査する範囲のものです。
また、鉄筋コンクリート造の場合、床面積あたり500円~2000円程度と言われています。
例えば、1フロア当たり200m2程度の10階建ての建物の場合(延べ床面積が約2,000m2)、100万円~400万円程度が必要になることになります。
「設計」の費用と相場
耐震改修工事を行うには区市町村の建築指導課から、設計図書(補強計画書)の提出が求められます。
「設計図書の作成」は診断士(設計士・建築士)が図面を作成します。
図面作成費用と各種手続きの申請代行費用がかかります。
多く自治体では設計に要する費用の一部を補助金(設計費用の2割から5割程度)で負担をしています。
診断費用の相場 東京都 耐震ポータルサイトより |
---|
1棟あたり約25万円から30万円程度だが補助あり |
「監理」の費用
改修工事が設計計画通りに実施されているか「監理」するための費用です。
改修工事の費用の8%から10%が監理費用の相場です。
設計と監理は同一業者(診断士)でおこなうことが多いため、設計と監理の費用は一緒に計上されます。
たとえば、200万円の改修工費用がかかった場合、20万円が監理費用として計上されます。
監理費用も助成金制度の対象となっていることが多いです。
「改修工事」の費用
屋根をはがして処分をし、新しい屋根を張る「改修工事費」です。
実際の工事費用になります。
診断や設計費用に比べて、改修工事費は桁ちがいに金額が高いです。
慎重に工事会社を選定し、できる限り相見積もりをするようにして欲しいです。
しかし、助成金制度を用いると改修工事費用が思っていた以上に高くつくこと(落とし穴)があります。
その原因は業者選定までの流れにあります。
耐震改修工事の流れと業者について
耐震改修を行う手順
※記載内容はよくある改修工事の流れです。
区市町村によって名称や名目が異なることがあります。
STEP | 実施内容 | 実施者 |
---|---|---|
1 | 耐震診断助成の申し込み | あなた |
2 | 診断 | 診断士(設計士・建築士) |
3 | 診断依頼 | あなた |
4 | 設計・監理契約を結ぶ | あなた |
5 | 設計図書作成と工事監理 | 設計士(診断士・建築士) |
6 | 工事契約を結ぶ | あなた |
7 | 工事開始 | 改修工事会社 |
8 | 報告書作成 | 設計士(診断士・建築士) |
9 | 工事完了報告書の提出 | あなた |
10 | 助成金請求書の提出 | あなた |
【重要】改修工事会社の選定の要件
補助金を受け取るためには、「診断」「設計」「監理」「改修工事」いずれも実施する業者に制限(縛り)があることがほとんどです。
市区町村内に本店(本社)がある業者もしくは市区町村が指定する業者への発注”のみ”に補助金給付を認めています。
発注先リストを用意している市区町村も存在します。
リストに掲載されている業者名にも注目をしましょう。
業者名を見ればすぐに気づくと思いますが、リストに掲載されている業者の多くは”工務店”などの総合建設業者です。
お施主様(工事発注者)は、元請けの工務店と下請けの屋根工事会社の多層構造になっているシステムを通して工事を依頼することになります。
さらに診断士(設計士・建築士)が知り合いの改修工事業者を連れてきて工事契約を結ぶケースもあります。
・自治体に登録されている診断士だから安心
・自治体に登録されている診断士が紹介してくれた建設会社だから安心
このような気持ちでエスカレーター式に工事を依頼する人が多いことでしょう。
業者の選定基準(建設業の許可や実績)があるからこそ、消費者が守られる。
そして一定基準以上の屋根工事が担保される考えも当然あります。
その一方で、フェアに工事業者が選定されないリスクも潜んでいます。
はじめから補助金をあてにせず(診断・設計・監理をしないで)、自由に相見積もりを取って屋根を葺き替えたほうがいいのでは?
そんな考えも一理あるはずです。

助成金のデメリット
工事費が高くなる
以下は弊社に寄せられたお問い合わせの内容(原文)です。
自治体の住所のみ伏せさせていただいています。
「現在■■の耐震補助制度を利用して耐震工事の見積もりを建築士を通し工務店から頂いております。
屋根部分面積の見積もりを含め金額が似たような他物件と比べ(複数物件所有)工事費用が割高で他の業者様からも具体的な見積もりを頂けたらと思い問い合わせさせて頂きます。 築60年以上、20年以上空き家だったこともありかなりの傷みがあり野地板、垂木も損傷が激しい状態で全て葺き替えが必要かと思います。
以下詳細(税抜)
足場 294m2 単価1500
瓦撤去 166m2 単価7000
野地板、垂木撤去 166m2 単価2400
既存樋撤去 137m 単価500
野地板、垂木新設 115m2 単価4200
化粧野地板、垂木新設 51m2 単価5500
ゴムアスルーフィング貼 166m2 単価1200
カラーベスト コロニアル 166m2 単価4500
板金工事 34m 単価4550
軒、堅樋新設 137m 単価2600」
結論をいうと、テイガクの工事費の2倍以上の金額です。
診断士(設計士・建築士)→工務店→屋根工事会社に発注する流れになった場合、これは孫請けシステムともよべます。
診断士が工事会社を紹介し工事が成約すると、工務店にバックマージン(紹介料)を求める診断士も存在します。
当然、そのバックマージンのお金は工事費用に上乗せされます。
助成金を受け取ったにも関わらず、結局、損をしてしまう。
消費者が診断士と工事会社がセットになる出来レースに巻き込まれないよう、横浜市では3社以上の改修工事会社に見積りを取ることを助成金の条件にしています。
しかし、多くの市区町村では横浜市ほど人口がおらず、施工業者の数も、助成金の申請書類を審査する人の数にも限りがあります。
そのため、複数社による見積り作成を必須にはしていないのが現状です。
地域活性化にはならない
設計や工事を区市町村の事業者に制限している理由は「地域経済の活性化」が目的です。
しかし、工務店のようなほぼ仲介業といえる会社が施工事業者の対象になっているのが事実です。
工務店が地元であっても、実際に屋根の葺き替えをおこなう屋根工事会社が地元ではなく、市や県をまたいで移動することはよくあることです。
また、屋根工事会社は発注先から直接工事をもらう立場ではないため、十分な利益を享受することができません。
登場人物が多く完工まで時間がかかる
助成金を受け取るためには、市区町村の建築課や診断士、工務店、下請けの屋根工事会社など登場人物が多く、手続きや審査もあり、工事完了までにやたら時間がかかります。
屋根リフォーム補助金制度の考察
日本は地震大国です。
いつどこで大型地震が発生してもおかしくありません。
地震と屋根の関連性は極めて強いです。
熊本地震でも多くの住宅の屋根が被災しました。
報道によると、屋根の工事は1年待ちの状況にいたっています。
改修工事までブルーシートの応急処置で雨風をしのぐことになります。
地域の建設会社に限定して発注させる助成金のシステムは、将来、起こりうる大規模災害を考えるとまっとう施策と評価できます。
しかし、補助金制度は施工主と屋根工事会社だけという小さな枠組みでは終わらない負の側面があります。
診断士や地元の建設会社、そして”地元の建設会社とつながるステークホルダー”が利益や機会を得るシステムでもあります。
この記事では触れられませんでしたが、屋根改修における助成金制度の対象において、「遮熱塗料を用いた屋根塗装工事」は助成金の対象だが「屋根カバー工法や屋根葺き替え」は対象外としている自治体がとても多いです。
これだけ地震や台風による屋根の不具合で苦しんでいる人が多くいるにも関わらず、屋根の機能向上よりも地元の建設会社や塗装会社の意向を優先しているようにしか思えないです。
(ちなみに、断熱材のついた金属屋根のほうが遮熱塗料よりはるかに遮熱効果や断熱効果が高いです。)
現在、わが国は職人さんの人手不足が加速しています。
外国人労働者に頼る考えもありますが、屋根の改修工事に関しては、言語や技術の点において日本人でなければ極めて困難であるというのが筆者の意見です。
職人さんの技術を継承し、育て、支えるための(職人さんがしっかり稼げるための)スキーム構築が必要です。
そのためにも、施工主と屋根工事会社の利益が確保できるシステムのデザインが何よりも真っ先に求められていると考えています。