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閉じるガイドライン工法とは?
ガイドライン工法とは、地震や台風に強い瓦屋根を実現するために設けられた瓦屋根の施工方法のことです。
阪神大震災を経た2000年建設基準法改正を受け、業界団体により平成13年(2001年)に制定されました。
「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」が発行され、耐震性と耐風性に優れた瓦屋根の張り方の基準が確認できます。
「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」は「一般社団法人全日本瓦工事業連盟」のホームページで購入が可能です。
能登半島地震ーガイドライン工法の屋根は被害無し
2024年1月に発生した能登半島地震での屋根被害調査で、ガイドライン工法に基づいて施工された屋根は被害を受けていないことが、国土交通省の研究所より公表されました。
ガイドライン工法の屋根の張り方は、地震対策にとても有効であることが証明されました。
詳細記事(株式会社 請川窯業HPより):https://ukegawa.info/jishinhigai/
令和4年1月からガイドライン工法の一部が義務化
令和4年(2022年)1月に、このガイドライン工法の一部が改正されました。
国交省は、新築・増築の建物を対象に、瓦屋根の緊結方法を義務化することを発表しました。
既存の建物は義務化の対象に含まれていませんが、瓦を使用した改修工事をおこなう場合は、改正後の内容で葺き替えることが望ましいとされています。
~2000年以前 | 2001年〜2021年 | 2022年以降〜 |
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大回し工法(旧工法) ※ガイドライン工法前の工法 |
ガイドライン工法 ※強制ではない |
ガイドライン工法の改正 ※新築・増築の建物は一部義務化 |
令和4年(2022年)の改訂内容
改訂で大きく変更があったのは以下の内容です。
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緊結箇所
【改正前】
軒・けらば:端部から2枚までの瓦
棟(むね):1枚おきの瓦
【改正後】
軒・けらば・むね・平部:全ての瓦 -
緊結方法
【改正前】銅線、鉄線、くぎ等で緊結
【改正後】瓦の種類、部位、基準風速に応じた緊結方法を規定
ガイドライン工法ができる前の瓦の張り方(2001年以前)
ガイドライン工法以前の瓦屋根は地震や強風に脆い状態です。
2000年以前の瓦屋根のリフォームは、補助金を援助している自治体も多いので、早めに改修を検討しましょう。
ここからは、ガイドライン以前の瓦屋根の張り方と問題について解説していきます。
瓦の張り方
現存する多くの瓦屋根は引っ掛け桟瓦葺(ひっかけさんかわらぶき)とよばれる工法で張られています。
桟木(さんぎ)とよばれる細くて小さい木に瓦を引っ掛けて留めつける工法です。
引っ掛け桟(ひっかけさん)工法や乾式工法ともよばれます。
2000年までの瓦の張り方は、瓦4枚につき釘を1本つかって瓦を桟木に打ち付けていました。
棟瓦(むねがわら)
ただし、瓦のてっぺんに取り付ける棟瓦(むねがわら)だけは、土と漆喰を用いる湿式工法で積み上げられていることが多いです。
棟瓦は、ぐし瓦とよばれることもあります。
湿式工法は瓦を固定する力が弱い工法です。
実際に大きな地震や台風が発生するたびに、棟瓦が崩れる被害が続出しています。
テイガクで撮影した棟瓦についての動画
棟瓦の構造問題について
湿式工法と乾式工法
土をつかって瓦を張る方法を湿式工法とよび、土をつかわずに瓦を張る方法を乾式工法とよびます。
瓦全てを湿式工法で張る土葺き屋根は、まれではありますが、今でも見かけることがあります。
土葺き屋根は耐震性に問題があり、早期改修が広くよびかけられています。
ガイドライン工法以降の瓦の張り方
瓦の緊結について
ガイドライン工法では、瓦につかう釘の本数や種類に見直しが入り、瓦2枚に1枚(ちどり緊結)につき1本の釘をつかうことが最低基準になりました。
そして、2022年のガイドライン工法改訂からはすべての部位の瓦を釘などで緊結することが記載され、緊結方法についても、瓦の種類、部位、基準風速に応じて、より細かい緊結方法へと改訂されました。
棟瓦の乾式化
ガイドライン工法での棟瓦の工事仕様は、土をもちいた湿式工法ではなく、乾式工法が基本です。
乾式工法は、金具で棟瓦を固定します。
ガイドライン工法以降は、漆喰(しっくい)をもちいず、乾式面戸(かんしきめんど)とよばれるビニール製のシートを使用します。
2022年のガイドライン工法改訂では、棟瓦をビスを使用して緊結することが追加になりました。
防災瓦
昔は瓦と瓦を積み重ねて張るだけでしたが、ガイドライン工法以降の瓦は、瓦1枚1枚がツメ(アーム)で連結する形になっています。
いわゆる防災瓦のことです。
最近は瓦の軽量化も進んでおり、軽量防災瓦とよばれる新しいジャンルの瓦も登場しています。
ガイドライン工法の問題とこれから
ガイドライン工法は元々強制ではない
ガイドライン工法で施工された屋根は、耐震性や耐風性が従来の施工方法に比べて明らかに強いです。
これから瓦屋根の工事を検討されている方は、ガイドライン工法に従った工事をおこなうべきです。
平成11年5月に改正された建築基準法で、瓦は風圧や地震で脱落させてはならないといった条文(性能規定)が明記されました。
ガイドライン工法は元々、建築基準法の改正にあわせて瓦業界団体がよびかけているもので、強制ではありませんでした。
しかし、2022年のガイドライン工法改定で、新築・増築の建物は義務化の対象になったため、今後はガイドライン工法に従っていない瓦屋根は減っていくと思われます。
既存の瓦屋根建物は義務化対象外
現在の基準を満たしていない2021年以前の瓦屋根(既存不適格建築物と呼ばれます)は、まだまだ多く存在しています。
現在のガイドライン工法に沿った施工について、2021年以前の既存の瓦屋根の建物への義務化の対象外です。
瓦屋根で葺き替える際に、現在の基準に合わせることが望ましいとされていて、強制力はありません。
これは建設業界すべてにおいて当てはまりますが、費用負担や手間のかかる任意の施工方法を積極的に取り組む建設業者はほとんどいません。
もちろん、瓦葺工事会社の中には屋根の長寿命化をしっかり考えている会社も存在します。
こらから瓦屋根を新しく張る予定の施主様は注意を払ってほしいです。
ガイドライン工法をおこなう会社の見つけ方
ガイドライン工法で施工ができる瓦葺工事会社は、研修課程を修了することが条件となります。
とりまとめているのが一般社団法人全日本瓦工事業連盟です。
内閣府所管の一般社団法人で、「全瓦連」とよばれています。
かいつまんでいうと瓦葺工事業者が集まった組合です。
全瓦連のウェブサイトで、ガイドライン工法ができる瓦葺工事会社を見つられます。
「認定店」のマークがついている会社がガイドライン工法をおこなえる業者です。
新築時におけるガイドライン工法の費用
新築時における瓦屋根工事のざっくりとした費用感です。
野地板と足場料金は含まれておりません。
瓦屋根工事 | 工事費用 |
---|---|
従来の工法 | 屋根面積×10,000円+役物代30万円 |
ガイドライン工法・全数緊結 | (屋根面積×12,000円+役物代30万円)×消費税 |
ガイドライン工法・縦残釘留め | (屋根面積×13,000円+役物代30万円)×消費税 |
おおむね従来の瓦屋根工事に比べて20%~30%程度、高くなると思われます。
石州瓦のメーカー株式会社丸惣のホームページに詳細の工事価格が掲載されています。
参考にしてください。
改修時(葺き替え時)におけるガイドライン工法の費用
ガイドライン工法を採用した屋根葺き替え工事
現在は瓦の屋根は、軽くて丈夫な金属屋根へ葺き替えるのが一般的です。
しかし、建物を丈夫で立派に見せられる瓦屋根への葺き替えも望まれる人もいらっしゃいます。
下記に、ガイドライン工法を用いた瓦屋根の葺き替え工事の目安の金額を示します。
瓦屋根工事 | 工事費用 |
---|---|
従来の工法 | 屋根面積×10,000円+役物代30万円 |
ガイドライン工法・全数緊結 | (屋根面積×12,000円+役物代30万円)×消費税 |
ガイドライン工法・縦残釘留め | (屋根面積×13,000円+役物代30万円)×消費税 |
テイガクは、金属屋根への葺き替え工事が得意な板金工事会社です。
金属屋根への葺き替え工事の価格については、当社のウェブサイトで詳しく掲載しています。
ガルバリウム鋼板を含めた金属屋根の工事は、テイガクの価格表を参考にしてください。
住宅・建築物安全ストック形成事業
改正基準に適合していない瓦屋根の耐風性能の診断や葺き替え工事について、国は補助金による支援を実施しています。
窓口は各市区町村で、地域によっては独自の支援制度も設けていることがあるため、お住まいの自体のホームページを確認しましょう。
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屋根の耐風診断
瓦屋根の緊結方法等の診断
補助額・補助率:診断費の2/3、最大2.1万円/棟 -
屋根の耐風改修
改正基準に適合しない瓦屋根について、所要の耐風性能を有する屋根にふき替え
補助額・補助率:工事費の23%、最大55.2万円/棟
さいごに
瓦屋根の最大メリットは耐久性が高いことに尽きます。
長寿命だから新築時に瓦を選択したかたが多いはずです。
これから新築で瓦屋根工事をおこなう方は、大事なお住まいの資産維持のためにも、ガイドライン工法での施工を実施してください。
また、ガイドライン工法が取り入れられていない瓦屋根にお住まいの方は、台風や地震の被害を抑えるためにも、ガイドライン工法を取り入れた瓦屋根の改修、もしくは耐風性能や耐久性能に優れた金属屋根への葺き替えも検討してみてください。