屋根維持保全も義務化して欲しい
ご注意
こちらの記事は金属屋根の改修工事を専門おこなう会社の見解になります。
立場によっては、意見の相違が生まれるはずです。
ひとつの屋根工事会社としての参考意見としてご覧ください。
新築の戸建て住宅の屋根の上に太陽光パネルを取り付けることが義務化される見込みだ。
筆者は屋根の上に太陽光パネルを取り付けることに反対だ。
言うまでもないことだが、屋根は建物で最も大事な部位である。
その屋根に、無理矢理、屋根を傷みつけて太陽光パネルを設置する行為には疑問を感じざるを得ない。
そのような行為をしてまで太陽光パネル設置を義務化するのであれば、太陽光パネル設置業者は屋根機能保全の義務も負って欲しい。
少なくとも太陽光パネルの減価償却年数分(17年)は、屋根機能維持の保証を設けて欲しい。
ほとんど知られていないことだが、太陽光パネルを設置すると実質的に屋根材のメーカー保証は失効する。(一部を除く)
屋根の機能維持と太陽光発電、どちらが重要であるかは、言うまでもない。
太陽光パネル設置義務化で最も重要なことは、太陽光パネルを取り付けても取り付けていなくても屋根の機能維持には何も影響がないことの立証である。
新築で主流の屋根材であるスレートやアスファルトシングルの屋根材メーカーは、太陽光パネル取り付けについて極めて消極的だ。
屋根材メーカーによる施工マニュアルは当然、存在しない。
これまで、屋根の機能維持はほとんど考えられないまま、多くの建物で太陽光パネルが取り付けられた経緯がある。
手当たり次第に太陽光パネルを屋根に取り付けてしまったため、悲惨な目にあっている消費者がたくさんいることを知って欲しい。
そのような悲惨な将来が待ち受けているリスクについて、ハウスメーカーや太陽光パネル設置業者から説明を受けていなかったと消費者は口をそろえて主張をしている。
以下に悲惨な結果になった3つのパターンを示す。
Yutube 動画
太陽光パネル取り付けの現実
3つの悲惨なパターン
2000年以前に建築された屋根に太陽光パネルを設置したパターン
2000年以前に建築された建物の屋根に太陽光パネルをのせている建物をよく見かける。
2000年の建築基準法改正と品確法が制定される以前の建物は、南側にたくさんの窓を設ける建設会社が多かった。
当時の建物は、南側(庭側)にやたらと窓が多い傾向がある。
今では南側にたくさんの窓を設けることは、耐震性を弱めるといった考えにいたっている。
専門用語を用いると、昔は建物の重心と剛心のずれが大きい建物がたくさん建築された。
ちなみに、南側の窓の問題(重心と剛心のずれの問題)は阪神大震災による建物倒壊が契機となり、法律によって見直しが図られた。
したがって、2000年以前の建物に太陽光パネルをのせることは避けたい。(ただし、構造計算をしていれば問題はない。)
そして、南側の屋根に重たい太陽光パネルをのせる行為は、屋根が重くなるだけではなく、重心と剛心がずれることによる耐震性能低下を招くことも知っておきたい。
スレートやアスファルトシングルの屋根に太陽光パネル設置した
スレートやアスファルトシングルに太陽光パネルをのせている建物をよくみかける。
特に第二世代のノンアスベスト屋根に太陽光パネルをのせている屋根は、現在、大変なことになっている。
ぜい弱な屋根に太陽光パネルをのせてしまったために、太陽光パネルをのせてしまった人は不安な毎日を過ごしている。
スレートやアスファルトシングルの屋根に太陽光パネルを設置した場合でかつ太陽光パネルをそのまま継続して用いたい場合、原則、屋根カバー工法ではなく、屋根の葺き替えが望ましい。
理由は太陽光パネル設置で穴だらけになった野地板を、屋根カバー工法(更に金属屋根の穴が加わる工法)で再利用することは屋根にとって望ましくないからだ。(ただし、垂木固定は別)
屋根カバー工法の平均価格は110万円~120万円(税抜き)、葺き替え工事の平均価格は180万円~200万円(税抜き)だ。
これに太陽光パネル脱着工事費が約40万円(税抜き)程度加わる。
太陽光パネル設置後15年で、屋根に不具合があったり、台風で屋根が剥がれたりした人で、葺き替え工事を余儀なくされた人は意外と多い。
本来、太陽光パネルがなければ屋根カバー工法だけで十分な改修が行えたのに、太陽光パネルを設置させたがために300万円近い屋根の改修工事を求められる結果になる恐れがある。
築後15年で屋根を剥がして廃棄処分する結末は、不経済でかつ環境負荷の何ものでもない。
築後1年で台風で屋根が剥がれ太陽光パネル脱着をしたパターン
近年、風の勢いが増している。
太陽光パネルの被災だけではなく、屋根材が剥がれるといった風災害リスクは、10年前20年前に比べて確実に高まっている。
以下の表は、各主要屋根材の耐風圧性能の数値(Pa,N/㎡)だ。
屋根材の種類 | 耐風圧性能 Pa | 留め方 |
---|---|---|
スレート(コロニアル) | 2,248 | 鉄リングくぎ4本野地板留め |
アスファルトシングル | 3,200 | シングル用くぎ4本野地板留め |
金属縦葺き | 2,646 | 225mm間隔でくぎ2本野地板留め |
なお、太陽光パネルの耐風圧性能の数値は2,400Paだ。
スレート屋根の2248Paという数値は、風速60m/sに耐えられる数値であり、太陽光パネルの2,400Paという数値は風速62m/sに該当する。
それでは、2018年9月4日の台風21号と2019年10月の台風19号の最大風速はいくつだったかというと、最大風速は55m/sだった。
したがって、数字上では屋根も太陽光パネルも強力な台風には耐えられる設計になっている。
しかし、上記の数字は新築時の話しであり、屋根の下地である木の野地板の経年劣化による影響は全く考慮されていない。
事実、築後1年目の建物でさえも台風で屋根がはがれたという事例は数え切れないほどたくさんある。
築後10年20年と経過するほど屋根の固定力は野地板の経年劣化と伴に弱まり、同時に温暖化の影響で10年20年後は台風の勢いが増していく。
そんな将来が待ち受けているのだ。
まとめ
消費者が求めているのは、とてもシンプルだ。
最低30年間何も不具合がない屋根の機能維持だ。
太陽光パネル設置を義務化の前に、屋根材の機能保全が担保された施工方法を確立して欲しい。
そのためには、責任の所在を明らかにしつつ、屋根材メーカーと太陽光パネルメーカー、太陽光パネル金具メーカーの3社が協同し、屋根の機能維持を前提とする太陽光パネル取り付け方法のマニュアル作成をおこなう必要がある。
屋根材に何も影響がないことを立証してくれれば、私たち屋根工事会社は安心してかつ自信をもってお客様に屋根工事が提供できる。
残念ながら現実は、太陽光パネル取り付けと屋根材の製品保証がなくなることが、トレードオフの関係になっている。
そして、太陽光パネルメーカーは不適切な屋根材に堂々と太陽光パネルを取り付けている。
報道関係者は太陽光パネル設置のことだけではなく、設置される屋根材のことについてもフォーカスしてほしい。
屋根に関する消費者の関心やリテラシーが高まれば、おのずと問題の解消につながるきっかけになると思う。
太陽光パネル設置は、垂木固定の履行など、ここでは書ききれなかった問題が他にもある。
屋根は何ものせず、メンテナンスしやすい環境を維持することを最優先にして欲しい。
これが長年、金属屋根による改修工事を専門的におこなってきた屋根工事会社(不具合だらけの屋根ばかりを見てきた会社)の意見だ。