古くから日本に伝わる伝統的な屋根材である瓦屋根。
大きな屋根に瓦が葺かれているだけで、建物が立派に見えます。
瓦のシェアは年々低下傾向にありますが、新築時における屋根材としては十分検討に値する屋根材です。
このページでは瓦の特徴からその魅力、そして、最新の張り方について解説をします。
目 次
閉じる瓦の製造工程
土から瓦ができるまで
ステップ1. 粘土の掘り起こし
瓦の主成分は粘土です。
瓦に適した良質な粘土が採掘できる地域として、石州(島根県)、三州(愛知県)、淡路(淡路島)が有名です。
ステップ2.瓦の形に成形
瓦の形に粘土を成形させます。現代はプレス機で瓦の形にかたどります。
ステップ3. 乾燥
成形した瓦を1枚ずつ乾燥させます。
乾燥炉を使用したり、自然乾燥させたりします。
ステップ4.釉薬を瓦に塗布(施釉)
瓦に釉薬(ゆうやく)を塗布します。
釉薬とは、瓦をコーティングするガラス質の膜のことです。
着色もされます。
ステップ5.釜入れ(焼成)
1000度を超える窯に瓦を入れて、瓦を固めます。
窯出しして瓦を冷やし、点検をしたのちに市場に流通されます。
瓦屋根は他の屋根材よりも長寿命
瓦屋根の寿命は60年
瓦屋根の最も良い部分は、耐久性が高いことです。
全ての屋根材で最も長寿命で、瓦の寿命は60年といわれています。
他の屋根材と比較しても、寿命が長いことがよくわかります。
他の屋根材の寿命との比較
瓦 | スレート屋根 | 金属 | アスファルトシングル |
---|---|---|---|
60年 | 30年 | 40年 | 25年 |
瓦屋根は、初期コストがかかりますが、長期的な視点でみると最も価値がある屋根材です。
最近は漆喰を用いない乾式工法が標準化されているので、従来の瓦屋根よりもメンテナンス頻度は少なくなりました。
瓦の下地である野地板も長寿命
瓦屋根の最大メリットは、屋根下地である野地板の保護だと筆者は評価しています。
野地板は、屋根の下地で屋根を固定させる役割があります。
瓦屋根の裏側には、瓦と野地板の間に通気層(空気の通り道)を設けることができます。
十分な通気層があるおかけげで野地板が腐食しにくい状態が保てます。
通気層のないスレート屋根や金属屋根は野地板が腐食しやすく、30年40年経過するとボロボロになっていることも少なくありません。
瓦そのもののと、野地板を長期維持できる耐久性があるからこそ、瓦屋根の寿命が長いと表現できます。
もし、新築時で屋根材を選べる機会がある人は、瓦屋根を筆者はおすすめします。
瓦屋根の張り方とガイドライン工法
瓦屋根の今と昔を解説する上で、ポイントになるのは瓦の張り方です。
建築時期によって、瓦の張り方が異なります。
瓦の張り方を語る上で欠かせないのが、瓦の業界団体が2001年に制定された「ガイドライン工法」です。
ガイドライン工法は、地震や台風に強い瓦屋根を実現するために設けられた瓦屋根の施工方法です。
令和元年(2019年)に発生した房総半島台風の被害をふまえ、2022年1月には、新築・増築の建物を対象に、棟やケラバなど、屋根のすべての部位の瓦屋根を緊結することが義務化すると発表しました。
瓦屋根に関する建築基準法が改正されたのは、51年ぶりのことです。
なお、今回の義務化は、既存の建物は対象に含まれていません。
しかし、昔ながらの瓦屋根にお住いの人や、これから瓦屋根を検討している人は、瓦の屋根に求めらている張り方について、きちんとおさえておきましょう。
今と昔で全く違う瓦の張り方
張り方 | 棟瓦 | 瓦本体 |
---|---|---|
今の張り方(ガイドライン工法) | 全てビス留め | 瓦本体 |
昔の張り方 | 土で固定 | 2枚に1枚釘留め |
能登半島地震ーガイドライン工法の屋根は被害無し
2024年1月に発生した能登半島地震での屋根被害調査で、ガイドライン工法に基づいて施工された屋根は被害を受けていないことが、国土交通省の研究所より公表されました。
ガイドライン工法の屋根の張り方は、地震対策にとても有効であることが証明されました。
詳細記事(株式会社 請川窯業HPより):https://ukegawa.info/jishinhigai/
年代別の瓦屋根の特徴や問題
約20年前にガイドライン工法が生み出され、最近になって義務化されたように、瓦屋根には歴史があります。
ここからは、年代別に瓦屋根の特徴や問題について見ていきましょう。
築年数45年以上の瓦屋根
この時期の多くの瓦屋根は「土葺き」とよばれる工法が採用され、土で瓦を張って仕上げています。
屋根の重量がかなり重く、耐震性に悪影響をおよぼす工法です。
現在の瓦屋根が土葺き屋根である場合、早急に瓦の葺き替えをしてください。
築50年が経過している場合、ルーフィングとよばれる屋根の下に敷かれている防水シートがほとんど機能していない状態なので、いつ雨漏りしてもおかしくない屋根ともいえます。
築年数45年未満の瓦屋根
この頃の建物は、建築基準法が大幅に改正された時期です。
旧耐震基準と新耐震基準の全く性質が異なる耐震基準の考えが生まれました。
1981(昭和56)年5月31日以降に確認申請された建物ではない場合(旧耐震基準)は、耐震設計が不十分である建物の可能性が高いです。
築後40年以上の瓦屋根はできるだけ早期に葺き替えを検討しましょう。
もちろん、代表的な耐震改修工事として「屋根の軽量化」があげられます。
築年数45年〜25年の瓦屋根
阪神淡路大震災の被害などを経て、新たに2000年に建築基準法が改正されました。
「2000年基準」とよばれる基準です。
この時の建築基準法の改正により、南側に開口部をたくさん設ける住宅が減りました。
南側のほとんどが窓になっている住宅は、耐震性能に悪い影響がある(建物のバランスが悪い)可能性があります。
地盤調査の義務化もこの時期に始まりました。
そして、2001年には「台風や地震がきても屋根が崩れない張り方」を目的とした「ガイドライン工法」が策定されました。
築後25年以上経過している瓦屋根の建物は、耐震性能と瓦の張り方の品質が不十分である可能性が高いです。
特に棟瓦(むねがわら)に漆喰や土(湿式とよびます)を用いた瓦屋根は、棟瓦の崩れや飛散などの被害が頻繁に発生しています。
築年数25年未満の瓦屋根
ここ最近の大規模災害を取り上げます。
2010年~2024年に発生した大規模自然災害
地震 | 東日本大震災/熊本地震/北海道胆振東部地震/大阪北部地震/能登地震 |
台風 | 平成30年台風21号/令和元年房総半島台風/令和元年東日本台風 |
これらの地震や台風で最も被害にある建築部位は屋根です。
ガイドライン工法で施工されなかった瓦屋根の多くで被害が発生しました。
この問題を受けて、耐震性や耐風性に優れた瓦の施工方法として、ガイドライン工法の改定と全数緊結留めが義務化されました。
令和時代の瓦屋根
低迷する瓦屋根
下記グラフは2024年に公開されたフラット35(旧住宅金融公庫)の2023年データを元にした屋根材の出荷統計です。
2002年(平成14年)に42.6%あった瓦のシェアは、約20年後の現在、11%と1/4近くに減少しています。
ガルバリウム鋼板に代表される金属屋根の評価が高まっていることが背景にあげられます。
データは新築の戸建て住宅の出荷量によるものでるため、リフォームの屋根材出荷量を含めると、更に瓦のシェアは低くなります。
進化する瓦屋根
コスト面や耐震性の不安から、世間から瓦屋根は避けられる傾向もあります。
しかし、冒頭でも述べたように、建物を長く保ちたい方や、50年以上住み続けることを考えている方には、瓦屋根を強くおすすめします。
筆者は建築板金工事会社に所属しており、通常ならば競合関係にある立場ではありますが、耐久性に関しては金属屋根よりも瓦屋根の方が優れていると確信しています。
業界では、従来の重さより10%~15%ほど軽量化された軽量防災瓦、1/2の重さで耐久性に優れたルーガ(ROOGA)といった商品開発も進んでいます。
伝統的な美しさを保ちながら、現代の建築基準や住まい手のニーズに応える瓦製品の進化は、将来的にも注目すべき点といえるでしょう。
瓦屋根のお役立ち記事
瓦屋根に関するよくある質問
A
瓦屋根の葺き替え費用は、150~250万円程度が相場です。
テイガクでは瓦屋根の葺き替え費用を定額料金でお客様にご案内しています。
詳しくはこちらの「屋根工事価格表」を参考にしてください。
A
台風に強い瓦屋根は「瓦のつくり」と「瓦の張り方」の2点に注目してください。
瓦のつくりではアーム方式の防災瓦を用いて、瓦の張り方では全数緊結ビス留めで瓦屋根を仕上げれば台風に強い屋根といえるでしょう。
もちろんこの方法よりも優れた施工方法はあります。
A
一般社団法人全日本瓦工事業連盟(全瓦連)のホームページから見つけることができます。
A
テイガクが調べた限りでは、ヱビス瓦工業株式会社のモニエースでした。
つぎに丸鹿セラミックスのインクジェットルーフ、三州野安株式会社のセラマウントとエコハットが続きます。