本記事の解説ポイント
屋根塗装の失敗事例を解説します
屋根塗装よりも優先するべき工事をお伝えします
あまり語られていない屋根塗装の目的と必要性について解説します
コロニアル(スレート/カラーベスト)は時間とともに色があせる屋根材です。
”外壁塗装のついでに屋根塗装を塗装業者からすすめられた”
このようなきっかけで屋根塗装をおこなう方が多いです。
しかし、ついでの気持ちで屋根塗装をおこなうと、お金の無駄使いになる可能性があります。
2018年度は「最近、屋根塗装をしたばかりなのに失敗した」と言って、弊社にご相談されるお客様がたくさんいました。
このページでは屋根工事業者の視点で屋根塗装について深く掘り下げて解説いたします。
コロニアル(スレート)のメンテナンススケジュール
建築10年目 | 建築20年~30年 | 建築30年超 | |
---|---|---|---|
屋根塗装 | 美観上必要であれば | 美観上必要であれば | 美観上必要であれば |
棟(むね)板金交換 | 工事を検討 | ほぼ交換は必要 | 交換は必要 |
屋根全面改修 | 点検は必要 | 工事を検討 | ほぼ工事は必要 |
屋根塗装の目的
屋根塗装の目的は?
屋根塗装を定期的におこなうことで屋根機能が維持できると考えていれば、それは大きな間違いです。
屋根塗装をおこなう目的は「美観の維持」です。
屋根塗装をおこなうことで屋根の耐久性が向上することは期待できません。
屋根材メーカーの見解を確認しましょう
下記はコロニアルメーカーであるケイミューの代表的な屋根材、コロニアルクァッドのメンテナンススケジュールです。
部分補修の( )内をご覧ください。
屋根塗装は「美観上必要な場合は再塗装をおこなう」とケイミューは見解を示しています。
メンテナンススケジュールでは10年ごとに屋根塗装をおこない、30年目にリフォーム(葺き替えやカバー工法)を検討します。
このように屋根塗装は必要に迫られておこなうものではなく、美観の維持のためにおこなうものです。
1-3.塗料メーカーと塗装会社の見解を確認しましょう
塗料メーカーは屋根塗装をおこなうことで屋根の寿命が延びたり、屋根の耐久性が改善したりすることを立証していません。
また、塗装をおこなうことで色あせを保証してくれる塗装会社があっても、屋根の品質維持を保証してくれる会社はないはずです。
事実として、屋根塗装をおこなわずに20年以上何も問題なく屋根機能が維持できている住宅はたくさんあります。
電車の窓から住宅の屋根を見てみると、屋根塗装を一度もおこなっていない住宅がたくさんあることに気づきます。
つまり、屋根塗装をおこなってもおこなわくなても、屋根の品質自体に大きな違いがないです。
屋根塗装は必要に迫られておこなうものではありません。
ビジネスになるため、塗料メーカーや塗装会社は屋根塗装の必要性を過度にアピールしているだけです。
もちろん、屋根は住宅で最も重要な部位です。
ひとたび雨漏りが発生したら、私たちは生活ができなくなり、住宅の価値も地に落ちます。
私たち屋根工事業者の立場から申し上げると、コロニアルの場合は屋根塗装よりも優先して欲しいメンテナンス箇所があります。
屋根塗装よりも大切なこと
とにかく多い棟板金の不具合
屋根材がコロニアルである場合、屋根塗装によるメンテナンスより優先するべきことがあります。
それは棟板金(むねばんきん)のメンテナンスです。
コロニアルで最も多い不具合が「棟板金の飛散」です。
大型台風がきた時、この棟板金が飛ばされるといった不具合がよく発生します。
2018年の大型台風では「棟板金の飛散」が最も多い不具合でした。
棟板金が飛ばされる原因は板金と下地の経年劣化です。
棟板金の下には「貫(ぬき」とよばれる下地が使われています。
この貫は腐りにくい素材の下地が望ましいですが、一般的には安い木製品が使われています。
建築後10年から20年程度で棟板金を固定している釘が木の経年劣化の影響で緩みます。
釘が緩むと棟板金が飛ばされます。
屋根塗装時に棟板金のケアは必要
屋根塗装をおこなう時、棟板金の状態も確認する必要があります。
問題があれば釘の打ち直しや棟板金の交換をしなければなりません。
築20年近く経過している屋根で塗装をおこなう場合、屋根塗装と棟板金交換を同時におこなうことをおすすめします。
しかし、屋根塗装と棟板金交換を同時におこなうお客様はとても少ないです。
なぜなら、棟板金の工事は塗装とは別分野である屋根工事にあたるため、棟板金の交換までを提案できる(やりたがる)塗装業者が少ないからです。
むしろ、面倒なので「板金は問題ない」と言って板金工事を断る塗装業者の方が多いです。
そのため、塗装を最近おこなったばかりなのに、棟板金が飛ばされて再び屋根工事をするいった残念なことが起こります。
2-3.棟板金の工事は屋根工事業者の仕事
基本的に塗装職人さんは塗装以外の工事ができません。
塗装職人さんは板金を交換したり、屋根を葺(ふ)き替えたりすることはできません。
結局、棟板金の交換工事は塗装業者が屋根工事業者に外注する形でおこないます。
屋根と外壁の優先順位
屋根と外壁の優先順位
屋根と外壁、どちらの工事を優先した方がよいでしょうか?
屋根の方が外壁よりも優先した方がよいです。
たしかに、外壁の塗膜やシーリングが剥がれたり、外壁にひびが割れたりしていると雨漏りの危険はあります。
しかし、屋根の穴あきや剥がれに比べれば深刻な問題とは言えません。
屋根の不具合は雨漏りに直結しやすく、外壁に比べて被害が大きなくなる傾向があります。
屋根機能の維持を優先してください。
つまり、外壁塗装のついでに屋根工事をおこなうのではなく、屋根工事のついでに外壁塗装をおこなう考えの方が賢明です。
外壁工事を優先する人の方が多い理由
しかし、実際は外壁塗装をきっかけにして、屋根工事を検討する順序の方が多いです。
理由は屋根は目が届かないからです。
外壁の色あせやシーリングのひび割れが先に気になり、多くの人は塗装工事を優先しがちです。
塗装業者から外壁塗装の見積もりを取り、塗装業者に屋根塗装をすすめられて屋根工事は屋根塗装を選択するといった方が多いです。
塗装業者による屋根工事の提案
塗装業者の多くは本業の塗装だけで済む工事をお客様にすすめます。
棟板金の交換工事をすすめることは少ないです。
わざわざ屋根工事業者をよぶことになる工事を提案するのは面倒だからです。
棟板金の工事をおこなうと、屋根工事費用が高くなるため、見栄え(価格訴求力)が悪くなります。
また、屋根塗装だけの工事であれば、雨漏りが起きたとしても責任が免れやすくなります。
塗装業者のゴールは外壁塗装に加えて屋根塗装だけの工事を受注することです。
このような考えを強くもつ塗装業者であるほど、お客様宅の屋根機能の維持には気を留めません。
お客様の棟板金の釘が緩んでいても見て見ぬふりをします。
このことは決して悪いことと言い切れません。
板金の交換工事をすすめることで、お客様がカバー工法に興味を持つと受注契約が台無しになる可能性があります。
ビジネスとして利益を追求するためには、塗装会社のスタンスとしては当然の姿です。
そもそも、屋根の板金について全く知識がない塗装職人さんもたくさんいます。
塗装を本業とする業者では本来必要とする屋根工事の提案が得られにくいです。
屋根塗装の依頼先は?
屋根塗装ができる板金工事会社がおすすめ
板金工事会社とはコロニアルや金属屋根、アスファルトシングルなどの工事を専門にする屋根工事業者です。
もちろん、棟板金の交換や雨漏りの対処にも精通しています。
工事は板金工職人さんがおこないます。
板金工事会社には塗装工事ができる業者もたくさん存在します。
屋根塗装ができる板金工事会社に屋根を見てもらうことをおすすめします。
コロニアルの代表的な工事に、コロニアルの上に金属屋根を被せる「カバー工法」という工事があります。
カバー工法は板金工事会社が専門として請け負う工事です。
そのため、屋根に関する様々な提案をお客様は受けれます。
屋根は板金工事会社に任せれば安心です。
分離発注もおすすめ
分離発注とは各専門の工事会社にお客様が別々に工事依頼をする発注形態のことです。
たとえば、屋根塗装は塗装業者に、棟板金は板金工事会社にお客様が直接発注する形態を分離発注とよびます。
比較的多いケースは外壁塗装を塗装業者に依頼し、金属屋根のカバー工法を板金工事会社に依頼するパターンです。
インターネットの普及により、工事会社を見分けることが簡単になりました。
そのため、塗装と屋根の業者を分けて発注するお客様が増えています。
分離発注は工事料金を安くできたり、各専門分野のプロに任せれるメリットもあります。
ただし、お客様が複数の業者と打ち合わせをする労務負担があります。
屋根塗装の失敗例
屋根の塗料選びによる失敗
屋根の塗料
屋根塗装で使う塗料は外壁塗装とベースとなる素材は同じです。
外壁塗料と同様、屋根の塗料は大きく以下の5種類に分類できます。
屋根塗料 | おおよそのメーカー設計価格 |
---|---|
(1)ウレタン | 3,100円/m2 (下塗材込) |
(2)シリコン | 3,400円/m2 (下塗材込) |
(3)ラジカル制御型 | 3,700円/m2 (下塗材込) |
(4)フッ素 | 4,000円/m2(下塗材込) |
(5)無機 | 4,500円/m2(下塗材込) |
外壁塗料よりも品質の低い屋根塗料を使う人がいます。
もしくは外壁塗料と同品質の屋根塗料を使う人がいます。
たとえば、外壁に(3)を使い、屋根に(2)を使うといったパターンです。
外壁塗料よりも低い品質の屋根塗料を使うことは絶対に避けてください。
むしろ、外壁塗料よりも高い品質の屋根塗料を使ってください。
屋根は塗膜が劣化しやすい
屋根は紫外線や雨風の影響を受けやすいため、外壁に比べて圧倒的に早く塗膜が劣化します。
たとえば、屋根と外壁で同質系塗料を使った場合、屋根塗料は外壁塗料の半分程度の耐用年数になります。
※参考:エスケー化研/プレミアムシリーズ(ラジカル制御型)耐用年数
下記は塗料メーカーが公開している塗料の耐用年数です。
屋根塗料 | 耐用年数 |
---|---|
”外壁用”ラジカル制御型 | 14~16年 |
”屋根用”ラジカル制御型 | 7~9年 |
このように、同品質の塗料を外壁と屋根に使うことは避けるべきです。
屋根の塗装をおこなう場合は、外壁で用いる塗料よりワンランクもしくはツーランク上の塗料を使う必要があります。
しかし実情は、屋根塗装は価格重視になり、ウレタン系塗料が選択されています。
ウレタン系塗料ではわずか3年で色があせることがあります。
金額でたとえると、工事金額20万円程度の屋根塗装工事は意味がないです。
「屋根塗装は外壁塗装のついで」というスタンスでは、ついつい外壁よりも低い品質の塗料を選びがちになります。
そして、塗装業者も日常的に目にすることのない屋根に高価格塗料をすすめようとはしません。
塗装をおこなう時は、外壁と屋根が劣化する足並みをそろえるといった本来の目的を忘れないようにしましょう。
屋根リフォーム工事の費用対効果
屋根のリフォーム工事には以下のようなパターンがあります。
屋根リフォームパターン | 約30坪の工事費用 |
---|---|
(1)棟板金交換だけ | 約50万円 |
(2)屋根塗装(フッ素塗料)だけ | 約60万円 |
(3)屋根塗装+棟板金交換 | 約90万円 |
(4)屋根カバー工法 | 約140万円 |
(5)屋根葺き替え(アスベスト含) | 約180万円 |
30坪(約100㎡)の屋根に置き換えて、ざっくり価格(足場代込み)でまとめました。
コロニアルの耐用年数は30年程です。
屋根塗装と棟板金の交換をおこなっても屋根本体の寿命が近い場合は工事をおこなう意味がありません。
ご予算がある場合は費用対効果の高い屋根カバー工法をおすすめします。
高圧洗浄のダメージによる失敗
コロニアルはコケが生えやすい屋根です。
そのため、屋根塗装をおこなう前に高圧洗浄で屋根を一度きれいにします。
この高圧洗浄は屋根に負荷がかかります。
高圧洗浄は「洗い落とす」ではなく、「削り落とす」ことで屋根を洗浄します。
高圧洗浄が原因で屋根が割れたりすることも少なくありません。
特にアスベスト含有規制後(2000年以降)に販売されたコロニアルは高圧洗浄で割れやすい傾向があります。
高圧洗浄が不向きな屋根です。
棟板金の飛散による失敗
2018年の大型台風発生時に棟板金が飛ばされた方がたくさんいました。
数年前に屋根塗装をおこなった方も相当数、被害を受けていました。
屋根塗装をおこなう時に棟板金のケアもしていれば、被害を未然に避けられた方もいたはずです。
必ず屋根塗装とあわせて棟板金の状態確認、できれば交換工事をおこなってください。
まとめ
外壁に比べて屋根は軽視されがちです。
屋根は目が届かないところであり、そんなところにお金を使いたくないといった方がたくさんいます。
そのため、塗装業者の言われるがまま、屋根塗装を外壁塗装の”ついで程度”におこなう方が少なくありません。
しかし、屋根塗装直後に不具合が生じたり、塗装後3年程度で色あせたりした屋根を私たちはよく目にします。
「外壁塗装を入口にして屋根工事を検討」するよりも「屋根工事を入口にして外壁塗装を検討」する方が、お客様の利益に結びつくことが多いです。
「屋根が将来にわたり安心できる状態であるか」をまずはじめに確認したうえで、「屋根塗装」を検討してください。